ブログ… 「コーチはリーダーである。リーダーはコーチである」
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安心と変化のコミュニケーション…「学習の遺伝子」

それは「僕は子供の教育には2年間だけしかつきあわなかったんだから」という言葉で始まりました。

定期的に開催されるある会議で、メンバーの循環器科のドクターKさんと世間話をしてて、ふとしたことで彼の子供たちの話になったのです。そのドクターには息子が二人いて、二人とも医者になり、そのうち一人が海外で活躍していることはすでに知っていました。

しかし私から見てそのドクターは、会議においてはグチや不平が多く、また説明が冗長でかつ決定力がないというような振る舞いが多く、特に学ぶところはない感じだなというような気持ちを持っていたのです。

ただ根っこの人柄は良い方なので、冗長になりがちながらもそれなりに活発に言葉を交わすことができましたし、その中でときどき出てくるご家族の話には、なぜか耳をそばだたせられる響きがありそれを少し不思議に思っていました。

結論から言えば、Kさんの子供との関係、特にその教育方針のあり方には、この格差の時代を生き延びるための「学習の遺伝子」とでも言うべき情報が含まれていて、その情報が私の嗅覚を刺激していたわけです。

Kさんは子供に対して、小学校5年から6年までの、2年間だけ「教育パパ」になりました。

といっても親が自らの自意識や生存欲求の満足のために子供に施す強制的な教育ではありません。

「自分は何もしないで勉強しなさいなんて言っても子供がやるはずないよ」という本人の言葉通り、勉強という地味で忍耐が必要な努力を、子供と自分の両方に「公平」に課したのです。

Kさんは子供と同じ時間、同じ場所で勉強を始め、同じ問題集を解き、わからないところをその場で教えてあげるという「自らやってみせる」教育を実行しました。家庭教師や塾に頼らず自らの努力だけで子供に勉強を教えたのです。

家庭教師や塾に依存する教育は、いうなれば教育の「外注」もしくは「委託」と言えます。通常の仕事であれば「外注」や「委託」が必ずしも悪いわけではありませんが、こと教育に関しては決定的な短所があります。

高度経済成長時代のように国民全体が「今よりも将来が良くなる」という感覚を持てなくなった現在の日本の社会状況は、必然的に他者との経済的、社会的状況の善し悪しを比較する意識が強くなります。

確かに「隣りの芝生はよく見える」ものですが、経済成長の流れの中で「我が家の芝生ももっと良くなる」と思うことができた時代はそれほど大きな格差を感じる必要がなかったわけです。しかし社会状況は変化しました。

「隣りの芝生はこれからも良くなる」かもしれませんが、「我が家の芝生も同じように良くなる」とは限らなくなっています。それどころか悪くすれば我が家の芝生は枯れてしまうかもしれない…

要するに格差を意識し、格差に対処するための教育が必要になっていて、その社会状況の中、今までの「入学試験を突破する」ためだけの即物的な教育は効力を失ってきています。

塾や家庭教師で「ドーピング」的に点数を上乗せできて受験を突破できても、格差への対処という「超長期的課題」には通用しなくなっているのです。むしろ「ドーピング」の副作用で、学習能力そのものが破綻するケースが多いのは皆さんも感じているところではないでしょうか。

その時期総合病院に勤めていたKさんは、帰宅は早くても8時。食事を済ませて、その時間から息子とともに、受験のための問題を解く毎日です。終了は夜2時より遅くなることもざらで、しかしもちろん翌日は定刻に病院で診療を始めるのです。

息子さんが通ったのは、全国的に有名な中高一貫教育の名門校ですから、かつての優等生だったKさんも昔取った杵柄とはいかず、簡単に解答できないレベルの問題集に取り組まざるを得なかったようです。

解答できなければ、子供に質問されても答えることができない…その局面をKさんは自らの自尊心を超えて解決していきます。

自分が解けない問題を、同僚や後輩の医師に依頼し解答してもらいその解法を教えてもらうという作業をその2年間やり続けたのです。

事前に問題集の解答を準備し、そして夜の子供との共同作業に備えるその決意には強い印象を受けざるを得ませんでした。

最初の息子さんに2年、次の息子さんに2年、計4年をKさんは子供との勉強に費やしました。彼の言葉で言えば、「2年間だけ子供の勉強につきあった」のです。

「だって2年間だけやれば、その後は中高一貫の学校だからなにもしなくていいでしょう?それでその学校だったら成績が悪くてもレベルを下げれば医学部には入れるんだから…」。結局Kさんの子供たちは彼の計画通り医師免許を獲得します。

経済と社会的地位と教育に明確な格差が生まれている現在の社会で、医師免許は強力な格差へのバリアになり得る道具です。

彼が日本に生じ始めた格差を感じながらそのような選択を行ったのかは定かではありません。しかし結果的に彼の行動は、格差の潮流の中で子供たちに救命ボートを作る結果になりました。

私は最後にひとつの質問をしました。

「そういう教育の方法はどういうプロセスの中で思いたったんですか?」

彼の答えはシンプル極まりないものでした。

「私の親も私に対してそういう教育をしてくれたんだよ」…

Kさんは決して息子達に勉強を教えたわけではありません。彼は彼らに「学習の方法」を教え、そしてKさん自身はその「『学習の方法』を教える方法」を、彼の親から学んでいたのです。

Kさんは自分の親から受け継いだ「学習の遺伝子」を、見事に子供たちに移植しました。

これからの日本は、経済と社会的地位と教育の格差が未曾有の壁として立ち上がってきます。

「学習の遺伝子」を受け継いでいけるかどうか…それがその壁を突破するための大きなポイントのひとつであることは間違いありません。

研修委員:黒木雅裕
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by y-coach_net | 2008-09-21 01:49 | 黒木さんのコーチング
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