本の紹介…文藝春秋社刊 「チーズ図鑑」
2008年 08月 23日
時々わけがわからないほど強い存在感を発している食べ物があります。目にした瞬間からこれは食べ物以外何ものでもないだろうと感じさせる食べ物たちです。
僕にとってそれは例えば「バナナ」です。僕はバナナを見るたびにその食べ物としての存在感にあきれる思いをします。
薄い皮で覆われているだけで中身はまるごと甘くてやわらかい果肉。タネすらはいっていなくてその果肉のすべてが丸ごと栄養の固まり。その上皮をむいていくと、なんとその皮までが、僕たちが手をよごさずに食べることができるための取っ手になってしまうという…
僕はバナナを最初に一囓りするたび、「ああバナナという存在は、本当に食べられるためだけに生まれてきたのだなあ」などとひとしきり感慨を感じてしまいます。
僕にとってのもう一つの「絶対食べ物」、それはチーズです。
チーズもバナナ以上に、その食べ物としての存在感を、形、色、におい、味、そして質感などそのあらゆる面から漂わせる、食べ物中の食べ物です。僕にして見ればその名前の響きだけで唾液が分泌される類の食べ物です。
もちろんチーズはその視覚的な存在感の強さだけではなく、タンパク質、カルシウム、ミネラルの集合体である動物のミルクを、いつでもどこでも食べられる保存食に転換した正真正銘の完全栄養食品です。
「チーズ図鑑」は初版が1993年。にも関わらず現在でも増刷され続けている、その名の通りチーズだらけの図鑑です。総計435種類、8割がフランス、2割がその他各国のチーズを1984年からほぼ10年間に渡り取材した大作です。
何が凄いといって、ページを開いても、ページを開いても…まああたり前のことですが、そこにはチーズ、チーズ、チーズなわけです。
チーズの全体写真、内部を見せるために三角にカットした写真、熟成される前と後の写真、ミルクの種類、産地、歴史、そして言葉と取っ組み合いをした上に組み立てられたその味わいの表現…
一言で言えば「チーズ好きにもほどがある」本なのですが、ただ眺めているだけでこんなに動物的に食欲を刺激される本も珍しいわけです。ダリの「蕩ける時計」のモチーフになった蕩けるチーズの写真も満載で、著者が噛り付く思いで取材している様子が実感されます。
現地に住みこんでいる日本人が主にヨーロッパ全域を股にかけて取材し、1000種の中から厳選して選んだチーズたちですから、どれもこれも写真だけでも魅力的なのは当たり前ですが、チーズを通した歴史の風景も感じられる楽しさもあります。
5000年前からの歴史があると言われるチーズ、本格的に流通し始めたのはやはりローマ帝国が隆盛を誇った時代で、ローマの食文化の薫陶を受けた修道士たちがヨーロッパ各地に散開してチーズ文化を各地に植えつけていったのです。
ですから、その修道院の名前がついたチーズも数多くあり、なぜかその名前まで強烈に「うまそう」に聞こえるのが不思議です。パンをキリストの体、ワインをキリストの血として行う聖餐の儀式に見られるように、人間の生命と聖性を融合させる文化がその背景にあるからかもしれません。
チーズによってはある村のひとつの場所だけでつくられていて、そこに行かなければ食べられないものも掲載されていて、インターネットのお取り寄せなど受け付けない贅沢感もこの本のたまらない魅力と言えます。
ちなみに人間の精神状態と食欲は密接にリンクしています。
ストレスや過剰なプレッシャーにさらされると人は食欲という根元的欲求すら低下させてしまうほど神経優先の動物です。見方を変えれば現在の社会的プレッシャーは、過敏になった神経が本能の欲求を抑圧してしまうほど複雑かつ巨大なものになっています。
チーズを見て食べたくてたまらなくなったり、あるいはその逆にその強烈な臭いを連想して見るのもいやになるような欲求がある時、私たちの神経は健全でバランスがとれています。逆にもしこの「チーズ図鑑」を見て、お腹のあたりが何も反応しないようであれば、こころが疲れている証拠かもしれません。
そんな本能のリトマス試験紙「チーズ図鑑」は、チーズとワイン好きの日本人女性3人が、10年と言う年月をかけてつくりあげた、「究極の豊穣体験マニュアル」です。ぜひご一読を。そして本能においしい「喝」を入れてあげてください。
研修委員:黒木雅裕
僕にとってそれは例えば「バナナ」です。僕はバナナを見るたびにその食べ物としての存在感にあきれる思いをします。
薄い皮で覆われているだけで中身はまるごと甘くてやわらかい果肉。タネすらはいっていなくてその果肉のすべてが丸ごと栄養の固まり。その上皮をむいていくと、なんとその皮までが、僕たちが手をよごさずに食べることができるための取っ手になってしまうという…
僕はバナナを最初に一囓りするたび、「ああバナナという存在は、本当に食べられるためだけに生まれてきたのだなあ」などとひとしきり感慨を感じてしまいます。
僕にとってのもう一つの「絶対食べ物」、それはチーズです。
チーズもバナナ以上に、その食べ物としての存在感を、形、色、におい、味、そして質感などそのあらゆる面から漂わせる、食べ物中の食べ物です。僕にして見ればその名前の響きだけで唾液が分泌される類の食べ物です。
もちろんチーズはその視覚的な存在感の強さだけではなく、タンパク質、カルシウム、ミネラルの集合体である動物のミルクを、いつでもどこでも食べられる保存食に転換した正真正銘の完全栄養食品です。
「チーズ図鑑」は初版が1993年。にも関わらず現在でも増刷され続けている、その名の通りチーズだらけの図鑑です。総計435種類、8割がフランス、2割がその他各国のチーズを1984年からほぼ10年間に渡り取材した大作です。
何が凄いといって、ページを開いても、ページを開いても…まああたり前のことですが、そこにはチーズ、チーズ、チーズなわけです。
チーズの全体写真、内部を見せるために三角にカットした写真、熟成される前と後の写真、ミルクの種類、産地、歴史、そして言葉と取っ組み合いをした上に組み立てられたその味わいの表現…
一言で言えば「チーズ好きにもほどがある」本なのですが、ただ眺めているだけでこんなに動物的に食欲を刺激される本も珍しいわけです。ダリの「蕩ける時計」のモチーフになった蕩けるチーズの写真も満載で、著者が噛り付く思いで取材している様子が実感されます。
現地に住みこんでいる日本人が主にヨーロッパ全域を股にかけて取材し、1000種の中から厳選して選んだチーズたちですから、どれもこれも写真だけでも魅力的なのは当たり前ですが、チーズを通した歴史の風景も感じられる楽しさもあります。
5000年前からの歴史があると言われるチーズ、本格的に流通し始めたのはやはりローマ帝国が隆盛を誇った時代で、ローマの食文化の薫陶を受けた修道士たちがヨーロッパ各地に散開してチーズ文化を各地に植えつけていったのです。
ですから、その修道院の名前がついたチーズも数多くあり、なぜかその名前まで強烈に「うまそう」に聞こえるのが不思議です。パンをキリストの体、ワインをキリストの血として行う聖餐の儀式に見られるように、人間の生命と聖性を融合させる文化がその背景にあるからかもしれません。
チーズによってはある村のひとつの場所だけでつくられていて、そこに行かなければ食べられないものも掲載されていて、インターネットのお取り寄せなど受け付けない贅沢感もこの本のたまらない魅力と言えます。
ちなみに人間の精神状態と食欲は密接にリンクしています。
ストレスや過剰なプレッシャーにさらされると人は食欲という根元的欲求すら低下させてしまうほど神経優先の動物です。見方を変えれば現在の社会的プレッシャーは、過敏になった神経が本能の欲求を抑圧してしまうほど複雑かつ巨大なものになっています。
チーズを見て食べたくてたまらなくなったり、あるいはその逆にその強烈な臭いを連想して見るのもいやになるような欲求がある時、私たちの神経は健全でバランスがとれています。逆にもしこの「チーズ図鑑」を見て、お腹のあたりが何も反応しないようであれば、こころが疲れている証拠かもしれません。
そんな本能のリトマス試験紙「チーズ図鑑」は、チーズとワイン好きの日本人女性3人が、10年と言う年月をかけてつくりあげた、「究極の豊穣体験マニュアル」です。ぜひご一読を。そして本能においしい「喝」を入れてあげてください。
研修委員:黒木雅裕
by y-coach_net
| 2008-08-23 20:24
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